「犬が来る病院」(大塚敦子)

専門家集団によるトータル・ケアの重要性

「犬が来る病院」(大塚敦子)角川文庫

実は酒井駒子のイラストの表紙に
魅せられて買った次第です。
犬も病院も、私はあまり
好きではなかったのですが。
でも読んでみて大正解、
素晴らしい一冊でした。

犬好きな人が読むと、もしかしたら
がっかりするかも知れません。
犬の登場はわずかです。
「犬が来る」ことを含めた、
聖路加国際病院小児病棟での
トータル・ケアについての
ドキュメントです。

小児癌を患って3度の入院の後に
天に召されたちいちゃん。
白血病と戦い続けて
力尽きた信ちゃん。
大腸潰瘍で大腸摘出手術を
経験しながら、病を克服した翔太くん。
体の自由がきかなくなりながらも
病に打ち勝った悦子さん。
この4人の健気な姿に、読んでいて
何度も涙がこぼれてきました。
生きていくための
勇気をもらえる一冊です。

本書を子どもたちに薦めるとすれば、
その観点は、まさにこうした4人の
生きようとする姿でしょう。
大人が読むとすれば、
その視点は
「専門家集団によるチームとしての
トータル・ケアの重要性」ということに
なるでしょう。

病院というと医師と看護師程度しか
思い浮かばないのですが、
本書には医療に関わる
様々な「専門家」が登場します。
小児病棟の患者は当然子どもたちです。
子どもたちの時間が途切れないように
教育面をサポートする
保育士、音楽療法士。
そして訪問学級の教師。
子どもたちの
心の悩みを受けとめる心理士、
チャイルド・ライフ・スペシャリスト。
退院後の生活を考え、
病院外の機関との連携を図る
医療ソーシャルワーカー。
セラピー犬訪問に関わる動物看護師。
こうした専門家たちが
連携しているのです。

大人と違い、
子どもは日々成長しています。
病気を治すためとはいえ、
成長のための時間が
すべてストップしてしまえば、
そのこと自体が患者の子どもの心には
大きな負担としてのしかかるはずです。
それが大人の病気と
異なるところであり、
小児病棟に特にトータル・ケアが
必要な理由なのでしょう。
こうした取り組みが、
全国の小児病棟に
いち早く広まることを願っています。

子どもにも大人にも
強く薦めたい一冊です。

※巻末の解説で、
 聖路加国際病院顧問の医師が、
 このトータル・ケアの体制を、
 「攻撃隊」(医師・看護師等)と
 「支援隊」(医療ソーシャルワーカー、
 病棟保育士、
 チャイルド・ライフ・スペシャリスト、
 小児心理士等)と、
 構造的に捉えているのが印象的です。
 子どもに関わるすべての機関に
 応用できるシステムだからです。
 考えてみると、
 中学校など教育現場は
 「攻撃隊」だけです。
 「支援隊」があれば子どもたちに
 どれほど多様な接し方ができるか。
 考えさせられるところが多々ある
 一冊です。

(2019.5.17)

Lenka NovotnáによるPixabayからの画像

2件のコメント

  1. 凄い、すごすぎる。
    すぐ買ってくる。
    大塚 敦子さんにあいたい。

    1. 私も大きな感銘を受けました。
      ぜひ手にとっていただきたいと思います。
      これからどうかよろしくお願いいたします。

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